見えにくい被災に寄り添って

2024年1月1日の能登半島地震から1年10か月。
まもなく2年を迎えようとしています。
しかし現地には、いまもなお“壊れたままの暮らし”と見えにくい被災に苦しむ人々の姿があります。

珠洲市で医療・福祉・在宅支援を続ける酒井明子先生(福井大学 医学系部門 看護学領域 教授/珠洲市防災アドバイザー)は、現場での活動と長期支援の実態を静かに、キッパリと力強く語られました。

🏠「戻りたくても戻れない」現実

酒井明子さんの言葉で印象的だったのは「被災者の多くは“戻りたくても戻れない”」という現実。
給水は99.8%復旧しても、住宅再建や公営住宅整備はまだ途上。

700戸の計画のうち、ようやく基礎工事が始まった段階で、住民の“生活再建”とはほど遠い状況です。

「申請・申請・申請の繰り返し」で、高齢者や障がいのある方が自力で書類を整えることができず、行政手続きに取り残されていく。
先生はその場に寄り添いながら、被災証明の申請書を一緒に書き続けてきたそうです。

在宅医療と「酸素難民」

被災直後から特に深刻だったのが、在宅療養者の命をどう守るかという課題。
「病院が在宅者の名簿を持っていない」ため、酸素ボンベ利用者の所在がわからず、一部では酸素切れによる死亡事例も起こったといいます。

唯一、業者が持つ名簿にアクセスできなかった現実。
先生は「個人情報だからという理由で命が守れないのは本末転倒」と強く語られました。
今後は、医療・介護・行政・民間が共有できるデータベースの構築が急務です。

長期避難が生む「災害関連死」

「災害関連死は終わっていない」酒井さんは何度もそう強調しました。

避難生活の長期化により、
・嚥下(えんげ)機能の低下
・介護度の上昇
・情報入手の困難
・支援者の不足
が深刻化しています。

2025年秋の時点で関連死はまだ増加傾向。
「亡くならなくてもいい命をどう守るか」という問いは、いまも能登全体の課題として続いています。

📦避難所の環境と「段ボールベッド問題」
避難所支援の中で語られた“現場の現実”も生々しいものでした。

全国から届いた段ボールベッドは13種類以上。
規格の違いが混乱を生み、組み立てや廃棄にも人手が割かれました。
「避難所ではベッドがあるだけでも命を守るが、標準化されていないことが課題」と先生。

能登町での成功事例では、地元企業と行政が連携し、社員100人以上が避難所設営に参加。
住民の負担が減り、医療・福祉支援も円滑に進んだといいます。
👉 「平時から協定を」という教訓が、全国の自治体にも共有されるべき実例です。

🌱支援の本質は「コミュニティ支援」
酒井さんが続けてこられた活動の柱は「コミュニティ支援」。
お茶会や健康相談、地域の小さな集いを通して孤立しがちな高齢者や在宅被災者の“声”を丁寧に聞き取ることを重ねています。

「支援は“物”ではなく“声を聞くこと”から始まる」

この言葉に、会場全体が静かにうなずきました。
「見えにくい被災」を見つめ、息の長い伴走を続ける姿に、本当の“復興”とは何かを改めて考えさせられます。

🔍課題と提言 ― 福祉避難所と人手不足
福祉避難所を開設した職員が「もう二度とやりたくない」と語るほど、現場の負担は限界を超えていました。
・日誌提出の義務
・膨大な書類処理
・人件費や経費が補填されない制度
──「支援する側が疲弊していく」という現実。

福祉避難所の人件費や経費を国が正当に補助し、
「支える人を支える仕組み」を急ぐ必要性を訴えられました。

🤝コミュニティと共助の力
酒井先生の講話の最後に、こうした言葉がありました。

「お茶会で“あ、生きてたんだね”って顔を見合わせる。その瞬間に人は生きる力を取り戻すんです。」

復興の道は長く、制度や計画だけでは心の回復は進みません。
だからこそ、「声を聴き、顔を見て、共に過ごす」――
その積み重ねが、見えにくい被災を照らす一番の光なのだと思います。

📍全国災害ボランティア議員連盟 能登研修(珠洲市)
登壇:酒井明子氏(福井大学 医学系部門 看護学領域 教授/珠洲市防災アドバイザー)
会場:のと楽会議室(2025年11月6日)

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